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潜水服は蝶の夢を見る [フランス映画]

 「潜水服は蝶の夢を見る」

閉じ込め症候群を発症した主人公の絶望と再生を描いた人生讃歌です。

正直、ものすごく気分が重たくなる作品なんですが、
その一方で生きるってことがどれほど素晴らしいか!を教えてくれるんです。
ある日突然発症した脳血管障害の後遺症で閉じ込め症候群=Locked-In syndromeと呼ばれる病気となった野心家で皮肉屋の主人公が圧倒的な絶望感から立ち直る姿を描いてるんだけど、
状況がまず凄まじい。何しろ意識はハッキリとあるのに動くことも話すこともできず、自分の意志で動かせるのは左眼のみ。左眼のまばたきでしかコミュニケーションが取れないんですよね。すなわち体は自発運動ができず、意識がカギをかけて閉じ込められたような状態(Locked-In)なんです。
でも、そんな彼にも残されたものが二つありました。

「想像力」と「記憶」

想像力は自由で頭の中から無限に広がります。
そう、それはまるでファンタジー。
想像の中の自分は自由に世界中を旅していて、愛する女を抱くことも子供たちと触れ合うこともすべて可能なんですよね。

自分だったらどうだろう…と考えると、とてもじゃないけど前向きに生きる自信はないですが、
動かない体では自ら死ぬことさえ許されない。
自分を憐むのはもうやめて、自分に残された“人間性”に必死でしがみついて生き抜こうと決心した主人公の想いの底知れない強さはハンパないですわ。

この作品は実話が基になっていて、コメディカルの支援もあってまばたきだけで意思疎通ができるようになった人気雑誌「ELLE」の編集長ジャン=ドミニク・ボビーが20万回のまばたきで綴った自伝的小説が原作。


深海のように光のない世界で着用してた重い潜水服を脱ぎ捨て、自由で豊かな想像力で蝶のように羽ばたいた主人公の姿に勇気づけられます。

想像力って素晴らしい。
生きるって愛おしく美しい。
実は…人はみんな蝶のように何不自由なく羽ばたいていて、その羽がある日突然理不尽に奪われることがあるなんて想像もしないし、毎日が決して当たり前ではないということに気づいてません。
でも、当たり前ではなくなった瞬間に自分の背中にあるはずの羽がなくなったことに気づくんですよね。


もうひとつ、この作品のスゴイところは演出。
冒頭部分で「一瞬これはなんだろう…」と思わせておいて、実はそれが主人公の左眼のみの視点であることに気づかされ、彼の視点で見せることでこの状況を追体験させられるんです。主人公の心の内なる声をモノローグにすることで否応なく共感させられるんです。時にそれは男なら誰もが思うようなことでもあり…

文字盤を使ったコミュニケーションもフランス語はアルファベットを出現頻度順に並べていくというやり方で、E(うー)、S(えす)、A(あー)、T(てぃ)、U(ゆー)、V(う゛ぃ)が映画の中で延々と繰り返されます。絶え間ない現実はESATUVと瞬きだけの紡いでいく世界。
撮影監督はスピルバーグ作品でお馴染みのヤヌス・カミンスキーなんです。


これは余談ですが、原題は「La Scaphandre et le Papillon」(=潜水鐘と蝶)で、英題は「The Diving Bell and the Butterfly」なので、邦題は本来の意味とは少し違うのですが、でも、このタイトルが最も作品の内容にフィットしてる気がします。
お時間があればぜひ見てみてください。


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