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AKIRA「ちゃんと伝える」 [日本映画]

「ちゃんと伝える」

園子温監督にしてはめずらしく“親と子の絆”を真正面から描いた珠玉の人間ドラマなんですが、すごく地味ながらとても考えさせられる作品で、心の動きを丁寧に捉えた感動作でした。

いつもと変わらない朝、母と二人で朝食を食べてからジョギングで出社し、仕事の合間に病院に立ち寄ってガンで闘病中の父を見舞い、同級生の恋人とデートし、友人と酒を呑み、いつもと変わらない夜を迎えて1日が終わる…それが今の当たり前のような生活。

でも、ほんの少し前までは違ったんです。父と母と息子の3人で食事をするのが当たり前の日常だったはずの家族はある日、庭先で蝉の抜け殻を手にしていた父が倒れ、その瞬間から普通の生活が普通じゃなくなったんですよね。

父子であってもまともに向き合うことがほとんどなかった二人。

高校の教師と生徒、サッカー部の鬼コーチと厳しくしごかれる部員という関係であることがあまりに強すぎたせいで、卒業後もお互いに親子らしい関係に戻るキッカケがないままに時間だけが過ぎたわけですが、そんな親子にとって父がガンで倒れるなんてまさに寝耳に水で、親孝行なんてしたことなかった息子は父の余命がもうそんなに長くはないと知って戸惑うばかり。


でも、皮肉にも父を襲った病気によって二人は初めて真正面から向き合うことができたんですよね。でもって、二人の間にあったわだかまりがゆっくりと少しずつ氷解していく様が伝わってくるんです。

「元気になったら二人で一緒に釣りに行こう」
と約束を交わす父と息子。
父子というより男同士の約束を叶えるために自分用の釣り竿を買ったりする息子の思いは「オヤジ、死ぬなよ」という切なる願いでもありますが、これが最初で最期の約束になっちゃうのが悲しすぎる…。

「あなたがガンです」

突然、父の主治医から告げられた息子に対する宣告がまた衝撃的でした。
愛する人を失うことより愛する人を悲しませたくない…

そう考える息子にとって自分の方が重いガンで父より先に死ぬことはこれ以上ないくらい最大の親不孝。つい「早く死んでくれ」と願いたくもないことを願ってしまう息子の「オヤジ、せめて1日だけでもいいからオレより先に逝ってくれ」っていう悲痛な心の叫びが聞こえてくるようだもん。
約束を実現させるために彼がとった行動は賛否あるかもしれませんが、そこにタイトルである「ちゃんと伝える」の深い意味が込められてるような気がしてきました。

日常生活の中であえて口に出さないことはたくさんありますし、近しい人ましてや身近な家族だったら何だか気恥ずかしくて、なおさら口に出せなくなりますよね。自分の思いを“ちゃんと伝える”のは難しい。でも、今伝えなければ永遠に伝えられなくなるかもしれないし、だからこそ、大切な人には言葉にしてちゃんと伝えなきゃいけない。

病床で妻を自分の横に寝かせて呟いた言葉がまた泣かせてくれます。ずっと厳しく接してきた父にとってちゃんと息子に伝えられなかったであろう言葉。空蝉を大切に扱う息子にとっては生きてるうちに父から直接聴きたかった言葉で、きっとそれはようやく男として認めてもらえた言葉になるに違いありません。

親孝行したいときに親はなし。
最大の親不孝は親より先に死ぬこと。
そして、後悔先に立たず。


「ちゃんと伝えることができてますか?」と問われてるような気がしました。

でも、自分は近しい人にも身近な家族にも感謝の気持ちすらまともに伝えることができてないだけに、そんな自分がもどかしくもあります。


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